芥川龍之介「文章と言葉と」から読み解く「書く事」への拘り

芥川龍之介の短編?(散文?)に「文章と言葉と」という、
芥川龍之介が、題目の通り、文章や言葉について綴っている文章があります。

以下、その一部を引用します。

芥川龍之介「文章と言葉と」より

僕は別段必要以上に文章に凝ったた覚えはない。文章は何よりもはっきり書きたい。頭の中にあるものをはっきり文章に現したい。僕は只ただそれだけを心がけている。

(中略)

僕の文章上の苦心というのは(もし苦心といい得るとすれば)そこをはっきりさせるだけである。他人の文章に対する注文も僕自身に対するのと同じことである。はっきりしない文章にはどうしても感心することは出来ない。

芥川龍之介「文章と言葉と」から読み解く「書く事」への拘り。


芥川龍之介は言わずと知れた大作家ですから、
この「文章と言葉と」の中で芥川龍之介が言っている

「頭の中にあるものをはっきり文章に現したい」

というのは、おそらく「物語」や「小説」の事なのだと思います。

ですが、この「文章と言葉と」の中で芥川龍之介が主張している事は、
コピーライティングなどにも通じるものがあると思いました。

コピーライターが文章やコピーを書く際に「頭の中にあるもの」は、
他でもなく、そのコピーを介して「伝えたい事」「伝えるべき事」であり、

「はっきり書く」「はっきり文章に現す」

というのは「遠回りをしない文章を書く」と言い換える事が出来ると思います。

強いて伝える必要のない事をダラダラと伝えていくような、
無駄な文章は「書く行為」にも「読む方」にも何の得にもなりません。

文章そのものに凝るのではなく、また、その伝え方に苦心するのではなく、

「どうすれば伝えたい事をはっきりと文章にできるのか」

芥川龍之介が心がけていた事は「この一点」という事であり、
自分自身が「読む側」となった視点においても、それは同じと言っています。

要するに「伝えたい事をはっきりとした文章で伝えて欲しい」という事です。

そして「文章についての散文」は、このような一文で結んでいます。

僕は文章上のアポロ主義を奉ずるものである。僕は誰に何なんと言われても、方解石のようにはっきりした、曖昧を許さぬ文章を書きたい

「方解石」のような文章を書く。


最後はいかにも時代の大作家らしいニーチェの「アポロ主義」と、
文章を石に例えた「方解石のように」という比喩。

アプロ主義は、芥川龍之介がどういう意味合いで用いたかはわかりませんが、
一般的な意味合いは「秩序や調和による統一を目ざす」という事らしいです。

平たく言えば、文章においては「合理主義」という事でしょうか。

方解石のように、は要するに「不純物の無い文章」という事だと思います。

とにかく「無駄な文章」「不要な文章」を取り除いた、
伝えるべき事だけをはっきりと伝えている文章を書く事。

これが芥川龍之介の「文章」に対して心がけている事であり、
また、文章を作っていく事への「苦心(こだわり)」だったようです。

そう考えると芥川龍之介は長編小説を書く事ができず、
実際、芥川龍之介の作品はいずれも短編小説ばかりです。

物語までも頭の中で簡潔にまとめてしまう思考だったのかもしれません。

それこそ、その物語で書きたい事、伝えたい事をはっきりと書いていくと、
おのずと、それは短編小説の範囲でまとまってしまったのではないかと。

アポロ主義者(合理主義者)が方解石のような文章を書いていれば、
物語や文章が簡潔なものになっていくのは当然かと思います。

大抵の有名な作家は何かしらの長編小説が出世作、代表作になっていますが、
その点、芥川龍之介は長編小説がなく(未完のものはいくつかあるそうですが)
全てが短編小説にも拘わらず、ここまで著名な作家になっているのは珍しいケースです。

まさに「無駄なのない文章によって作り出された簡潔な物語」が、
多くの人の支持を得ているからこそ、なのかもしれません。


コピーライターが「文章(コピー)」に心がけるべき事。


基本的に「コピー」も全く同じ事を伝えられているなら、
文字の数は1文字でも少なく、短い文章の方が反応も上がります。

まさに合理的に、方解石のような「無駄のない文章(コピー)を書く事が、
私達、コピーライターが心がけるべき重要なポイント課題でもあると思います。

もちろん「小説」と「コピー」は全く異なるものですが、
芥川龍之介の「文章と言葉と」に書かれている文章についての散文は、

・コピーライターが文章(コピー)に対して凝るべき事(こだわるべき事)
・コピーライターが文章(コピー)に対して心がけて苦心するべき事


これらそのまま書き表していると言ってもいいと思いました。

コピーライターこそ、アポロ的(合理的)な思考と文章で、
方解石のような無駄のない文章を書かなければならない、という事です。

もちろん、これは「当たり前」と言ってしまえばそれだけの話なのですが、
芥川龍之介のような著名な作家の「文章について」の文献を示せば、
その「説得力」が、何倍も増しますよね(笑)

これも文章で物事を伝える上でのテクニックの1つですから、
是非、参考にして頂ければと思います。

K.Uzaki

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